茜色の坂 船山馨 新潮文庫

茜色の坂 船山馨 新潮文庫
 
昔に読んだ小説を突然読み返したくなり
図書館が探してくれたボロボロの本を読み始めた
 
人一倍の勝ち気さとシャイが織りなす一方で
命を忘れた本能的なナイチンゲールとも成る母の
波乱万丈の一面を思い出さずにおられず
一人きりで過ごす今日一日
死の床で蓮花のように清濁合わせた人間を
描き出そうとした物語に読みふけり
人目をはばからずにすむことを幸いに
声を出して泣きながら涙で歪む字を追い続けることになった
 
この小説のジャンルは不明だけれど
生と死あるいは愛と情または有限と無限をテーマにした
ものなのであろう
 
252ページの
「死後の迫った人間の視線は自然に仰角的になり
そこにある過去の展望に気付くものなのであろう
未来にあるのは死だけだからだ」という言葉は
末期の眼で見つめると見えなかった奥深いものが見える
苦労は買ってでもしろということになるし
可愛い子には旅をさせろということでもあろう
 
342ページの「風の行方」あたりから佳境に入る
進むに連れ諸手を挙げて涙無しには読めなくなる
 
流石に小説家は見て来たように無いものを表現し
洗脳する詐欺師のようなもので
言葉使いがうまく流れるように読めてしまう
学者の文章などに比べれば三倍も楽に読めてしまう
それだけにだまされないように気を付けなければならない
だから私はめったに小説を読まないし
ドラマティックな映画も見ない